091123 味わい上手
しかしである。
その上をいく味わい方があったのである。
「んまい」である。
「うまい」「うめぇ」「うまー」は、庵主の物指しの中での違いである。己の中での評価である。
しかし、「んまい」は、己を超越した感動である。感謝の念に近い。生きている喜びである。
そのうまさには邪念がないのである。俺は味わっているのだという衒〈てら〉いがない。
身も心もとろけてしまうようなお酒との一体感につつまれた悦楽の上にたゆたっている。
そのお酒は「雪の茅舎〈ゆきのぼうしゃ〉」であるが、その気持に庵主も共感するのである。
「茅舎」は今一番うまいお酒だと庵主は思っている。一番充実していると言い換えておく。
どれを呑んでも間違いがないのである。
ふつうのお酒は1本を呑むともう1本呑みたくなるものである。欲が出る。貪欲である。
このお酒がこれほどうまいのだから、世の中にはもっとうまい酒があるにちがいないという
期待が膨らむからである。それがあまりにうまいのでもっと呑みたくなるからでもある。
しかし、「茅舎」は、その1本目で心から満足してしまうのである。だから2本目がいらない。
このお酒を呑めただけで生きていてよかったという思いにひたれるからなのである。
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「雪の茅舎」を呑む会の席で、齋藤社長に16度というのは加水ですかと伺ったら、
加水はしていません。醗酵を16度で止めていますということだった。
そして、いまはどの酒も櫂入れをしていないというのである。それでうまいのである。
櫂入れをしなくてもうまいお酒ができるということである。ちょっとうますぎるのである。