2010-03-27 光る言葉
森本毅郎が、これまで集められた名文のなかで一番素晴らしいのは何ですかと尋ねる。
疎問〈そもん〉である。愚問以下である。中身のない質問である。無意味な質問だからである。
愚問なら答えようもあるが、疎問(スカスカな質問)では答えようがないからである。
これまで見た映画の中で一番面白かったのは何ですか。答えられないのである。
今一番うまいお酒は何ですか。同上。聞かれた人に同情したくなる。
「一番になることに意味があるのですか。二番ではいけないのですか」と言ったのは蓮舫議員。
映画とお酒に関しては、その言葉は光る言葉といえる。一番に意味がないからである。
むしろ、万人受けするそんなものがあったとしたらそれはつまらないともいえるからである。
「1旧84」がベストセラーになったのならそれは読むまでもないということである。
だって、みんな知っているのだから一人くらい知らなくても心配ないからである。
お酒の面白さというなら、まだ多くの人が気付いていないうまいお酒を見つけることにある。
一番のお酒などはどうでもいいのである。
で、竹内氏の答はこうだった。旅先で永六輔の色紙を見たのだという。
「生きているということは 誰かに借りをつくること
生きつづけるということは その借りをだれかに返していくこと」。そんな感じの言葉。
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竹内氏が気に入っているもう一つの言葉が寅さんの科白だという。
故郷に帰ってきた寅さんが、街中で出会った顔見知りにかける言葉がいいという。
「相変わらず馬鹿か」
街に住んでいる人々の連帯感が感じられるという。自由と連帯感は裏表だったのである。
同時に同じ面を見せることはないということである。
同じ科白を国会内で某総理にいっちゃあいけない。
「それをいっちゃあおしまいだよ」
同じ言葉であっても二つの面があるのは、紙の裏表なのである。
それをいっちゃおしまいだよ、ということは、言葉の裏を知っているということである。
裏の言葉を口にしないのが大人の仕儀というものである。
森本毅郎のラジオ番組の聴視者から寄せられた光る言葉。
明石家さんまの「生きているだけで大儲け」。丸儲けだったか。
アニメ一休さんの「大丈夫、大丈夫。一休み、一休み」
金子みすゞ「みんな同じでなくていい。同じだとつまらない」みたいな言葉。
金子みすゞの言葉は、お酒の境地とも重なる。同じ酒なんか呑みたくないのである。
庵主のお勧めは城戸四郎松竹蒲田撮影所長の「撮影所に小津安二郎は二人いらない」