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2012-01-04 「泣ける」映画の誘惑に庵主は弱い

1月1日は映画が安く見ることができる日だったので「山本五十六」を観てきた。
国威発揚ということなら、予告篇で見た「はやぶさ 遙かなる帰還」の方が勝っている。
しかし、「山本五十六」はそうではなかったのである。戦争映画でなかったのである。
その戦記部分は、今となっては昔話といえる建前の「太平洋戦史」である。左翼史観による。

「太平洋戦争70年目の真実」は、「70年後の真実」なのだというこの指摘が鋭い。
軍部が勝手に暴走し無謀な戦争に突入、真実を伝えようとするマスコミは残酷に弾圧され、
市民は何も知らされずに米軍の爆撃で殺された哀れな被害者だったという、幾多の戦争映画で
描かれてきた、ありがちなステロタイプはこの映画には無い。

マスコミは自らの売り上げの為に戦意を煽り、多くの市民もまた経済活動として戦争を欲した
という認めたくない事実を描いているだけでも、本作は過去に日本で作られた戦争大作と一線
を画していると言えるだろう。
』。それじゃ、新聞社が取り上げるわけがないのである。
左翼〈マスコミ〉が喧伝してきた嘘の「歴史」を暴いたのがこの映画なのである。70年目に。

この「山本五十六」は当時になぞらえてく、今の日本の状況を描いている映画なのである。
だから戦闘場面に力点はかかっていない。それでもCGは芸が細かいという。委細は欄外。
演出もことさら涙を誘うところはない淡々としたものだった。食事の場面が多いのである。
うまい映画〈ばめん〉を見た後はうまいお酒が呑みたくなるが元旦の夜ではそれは叶わなかった。

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零戦が発艦直後にガクンと落ち込む描写や、空戦シーンの挙動なんかは完璧に近いと思う
長門や初期大和、機動部隊の進撃、金剛の夜間砲撃は感涙もの
拠所(393番) 
そういう細かいところを見ている人がいるのである。
コルトは俺のパスポート」という映画がある。余談:その『腰が抜けるほど美しい』に!。

日本映画で初めて銃弾の薬莢〈カートリッジ〉が排莢〈イジェクト〉される音を拾った映画と
してマニア筋では有名な映画である。「山本五十六」も音がよかった。男優の声がいいのだ。
発射後、ライフル銃から弾〈はじ〉き飛ばされたカートリッジが床に転がる音がちゃんと
入っているのである。その芸の細かいところを聞くために二度、三度と見るのである。

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「左翼史観〈でたらめ〉」というのはそれ自体は嘘ではないが、全体は嘘という与太話のこと。

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その台詞で場内が大爆笑になってしばし笑いがやまなかったのは市川崑の「億万長者」である。
国会議員役の伊藤雄之助が汚職の嫌疑で国会の委員会に喚問される。
その時の答弁が「全然記憶にありません」。
回顧上映で1976年にフィルムセンターで上映された時のことである。

時まさにローキード疑惑の真っ最中だったからである。
国会に証人喚問された小佐野賢治のそれがまさに「記憶にありません」だったからである。
1954年に作られた映画の台詞が24年後に大爆発してしまったのである。
歴史は繰り返すのである。その時は笑いですんだのだが。

今度の映画「山本五十六」の中の台詞がこれである。
劇中の「首相はコロコロかわる」「戦はやってみないとわからない」などの台詞は、何処まで
意図した物かはわからないが、過去5年で首相を5回も挿げ替え、多分大丈夫というノリで、
原発破綻を招いてしまった我々に対する、70年前からの痛烈なアイロニーである。
前掲

歴史は繰り返すというより、人は70年位でそう簡単に変わるものではないということである。
その二本の台詞を掘り出しただけでも、「山本五十六」は見る価値があるというものである。
それは戦争映画ではない。飲み食いの場面がやたらと多い戦争映画があるか、である。
「億万長者」が24年後を予言したように、この映画も。いや、どの時代も一寸先は闇。

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もし、人が、先を読めたら生きていけないのである。
今生きているというのは結果論であって、自分の意志で生きているわけではないのだから。
もし、人が、自分の死ぬ時を知っていたらとてもじゃないが生きる希望がわいてこない筈だ。
自分が死ぬ時を知っている人、即ち一寸先が読める人は果たしていらっしゃいますか、である。

生きているという意識が、生かされているという認識に変わった時が大人になる転換点なの
だろう。心に余裕が出てくるからである。頑張らなくてもいいんだということなのである。
生かされているのだから、だまって安心して大船に乗っていればいいのである。しゃかりきに
一人で小さい舟を漕ぐことはないのである。船なら漕ぐことなくうまいお酒が呑めるのである。

by munojiya | 2012-01-04 00:15 | 世話物 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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