2012-02-29 笑い話 結婚式の引出物
庵主は、それを「引き出し物」と読んでいたのである。
結婚式で貰った記念品にはろくなものがないので、かといって捨てるわけにもいかないので、
引き出し(押し入れ)にしまったままになってしまうからである。
それで、引き出し物だと思っていたのである。引き出しの死蔵品のことだと思っていた。
最近の引出物は、スマートに、薄いカタログを1冊渡されることが多くなったようだ。
昔はひどかった。手に持ち切れないぐらいの嵩がある品物を手渡されたのである。
宅配便もない時には、車を持たない庵主は電車の中で運び屋の気分を味わっていたものである。
引出物は結婚産業の商略にうまく乗せられたということなのだろう。
帰化人の邱永漢〈きゅう・えいかん〉が、ご子息の披露宴の時に用意した引出物の話である。
参列者は引出物を受け取るときに一々名前を確認されたという。
その引出物は、その人の名前を彫った印鑑だったのである。台湾の名人が彫った印鑑である。
そういう引出物も困るのである。印鑑とか御札とか縁起物は捨てるときに困るのである。
ゴミ箱にポイと捨てるわけにもいかないから。印鑑なら小さいから引き出し物でもいいが。
笑える披露宴はこれだという。一生記憶に残る引出物〈わらいもの〉というわけである。
かといって、引出物においしいお酒を貰っても、呑まない人には迷惑でしかないのである。
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そういえば、昭和の御世に引出物でもらったワインが手つかずで残っているのを思い出した。
当時、庵主にはワインを飲む習慣がなかったからそのまま引き出し物になっていたのである。
早飲み用のワインだろうから、コルクは抜いていないとはいえ、もう味は残っていないだろう。
ラベルには新郎新婦の名前が入っているから無下には扱えないワインなのである。