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2012-12-22 これを呑まなきゃ死んでも花実が咲かない

「読まずに死ねるか」と言って面白い本を語って死んでいったのは内藤陳である。
ないとう・ちん、である。ないとう・のぶる、である。
「映画について私が知っている二、三の事柄」と言って、面白い映画を語って死んでいった
のは、おっと、まだ健在の山田宏一〈やまだ・こういち〉である。

うまい本や、うまい映画に出合えた幸せをいい表す言葉がそれである。
ならば庵主がうまいお酒に出合えた幸せを語る言葉はこれである。
「これを呑まなきゃ死んでも花実が咲かないお酒」。
そのお酒を呑めというものではない。それは叶〈かな〉わぬことである。

お酒は、本や映画と違って、その現物がすぐになくなってしまうものだから再現性がない。
後日そのお酒を呑んで庵主の謳い文句を追体験するということができないということである。
うまいお酒からすぐに呑まれてしまうから、後から呑もうとしても既にこの世に存在しない。
一瞬の生命を蜉蝣〈かげろう〉に譬えることがあるがお酒はそれよりも短い輝きなのである。

つまり、お酒を語ることは、死んだ子の齢〈とし〉を数えるようなものである。
すなわち、はたから見ると、あほらしい行為である。
しかし、その子供の愛しさを知っている親にとっては哀しくも至福の記憶なのである。
その至福の記憶に花実を咲かせてやらなきゃ、お酒が可哀相というものである。

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それは、俺は知っているぞ、という自己満足にすぎないのだが。

by munojiya | 2012-12-22 05:33 | 酩酊篇 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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