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2012-12-29 お酒をよく知っているお婆さん

年末年始は5本立て

いまは、おばあさんを老女とは言わないらしい、マスコミでは。
読者におもねるためである。女子供にも「新聞〈どく〉」を読まそうという魂胆からだろう。
見出しに「交通事故で女性が怪我」とあるから読んでみたら78歳のお婆さんだったりする。
なんとなく違和感を感じるのである。標題の「お婆さん」にもその違和感を感じてもらおう。

お婆さんといってもそんな超高齢者ではなく、歳の頃まだ60代のしゃきしゃきの老女である。
言葉の威勢はいいのである。田中真紀子タイプのお婆さんである。歳の頃もそれぐらいか。
スーパーの酒売場でどうやらお正月用のお酒を選んでいるようだった。
並んでいるお酒は「越乃寒梅」「久保田」「八海山」などである。
「寒梅」は四合瓶で普通酒1980円、特別本醸造2480円、吟醸酒2980円とある。

庵主なら、笑って通りすぎる値段が付いている。
そのお婆さんが「越乃寒梅」の前で、店員を捕まえて訊いている。
「この値段の違いはどういうこと?」
「普通酒、特別本醸造、吟醸酒という造りの違いによるものです」

「こちらのお酒は、人気のあるお酒でして、なかなか手に入らないということから、大変恐縮
ですが、このお値段はプレミアムの付いた値段になっております。」
「分かっているわよ、そんなこと。私は毎年これを呑んでいるのだから。これか久保田なの。
だから、あんたは要らないこと言わないでいいのよ」と、よくお酒の事情をご存じのよう。

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「久保田でしたら、今でしたら萬寿もありますが」
「見ればわかるわよ。私は久保田もひととおり呑んでいるのだから」
「越乃寒梅にするか、久保田にするか、どっちがいいか考えているのよ」
「越乃寒梅は昔から有名ないいお酒ですよね」

「そんなことは分かっているの。昔から知っているんだから。要らないことは言わなくても
いいの」と店員のお愛想を制している。会話のできないお婆さんのようである。
そんなこと分かっているというのなら、「越乃寒梅」の値段の違いの理由が分からないという
のもおかしな話だが、“お客様は神様”である。お客様の気分には逆らえないのである。

スーパーの店員は、お酒はよく知っているお客様だということなので、
「では、どうぞごゆっくりお選びください」といって難をのがれてしまった。
たしかに、商品を見ている時に、店員がそばで付きっきりというのは落ち着かないから、
訊かれたことを答えたらあとは客から離れるのがいいサービスなのかもしれない。

それとなく、そのお婆さんを見ていたら、結局、「久保田」の「千寿」を選んだのである。
四合瓶1980円の「千寿」を。お酒をよく知っているお婆さんは太っ腹なのである。
庵主にとっては噴飯物のお値段なのに。いや、庵主には勿体ない値段と言い換えておこう。
ちなみに、そのそばにあった「八海山」の本醸造は1157円だった。そんなところである。

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こういうお婆さん、おっとお姐さんの話を思い出したのである。
お酒の話はしないほうが利口なようである。
庵主は“布教”でうまいお酒を呑めと勧めているから、すなわちその目的は、それによって
自分がもっとうまいお酒を呑める環境を作ることにあるからそれは利己的精神なのである。

by munojiya | 2012-12-29 00:30 | 酩酊篇 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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