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2013-03-23 曜変天目茶碗

落語に「井戸の茶碗」という噺〈はなし〉がある。
その茶碗は世に二つとない名器ということなのだが、しかし、それがどのように名器なのかは
噺の中では語られないのである。
だから、その噺を聞く人がそれぞれの想像力でそれを補うしかない。

真っ当な、うまいお酒を味わったことがない人は、「うまいお酒」と聞いても、それまでに
呑んだことがある大してうまもくないお酒しか思う浮かべることができない。
まだ呑んだことがないその味わいは想像することさえできないのである。
それゆえに、「うまいお酒」とは、呑み手の経験に制約される言葉なのである。

うまいお酒とは想像するお酒ではなく、実際に呑んで味わうお酒だということである。
だから、機会があったら進んでうまいお酒を呑むことである。
もっとも機会がない人には、待っていたのではいつまでたってもうまいお酒とは出合えない
から、求めて呑みに行くしかないだろう。

その茶碗には「稲葉茶碗」という名前がついている。
この世に一つしかないという茶碗である。何がすごいのか。曜変した天目茶碗だからである。
その茶碗は東京の静嘉堂にあって、今開催中の展覧会で見ることができる。見るなら急げ。
庵主は軽い気持ちで見に行って圧倒されてしまったのである。庵主の想像力を越えていた。

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曜変というよりは妖艶、天目というよりは刮目、茶碗というよりはそれは人の心を魅了する
小宇宙を見ているような器である。色と形はリンク先の図版で見ることができる。
いつもの展覧会のように一瞥して帰ってくるつもりだったが、その茶碗にすっかり釘付け
になってしまったのである。見入って飽きなかったからである。いい茶碗の謂いである。

by munojiya | 2013-03-23 18:31 | 酒の肴 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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