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B級グルメ

グルメという言葉が一般的になったのいつごろからだったろうか。
食通と訳しても、嗜食症と訳しても
同じことである。
前者は肉体的に見たときの、後者は精神的に見たときの同じ症状だからである。

グルメの期待に応える食い物や飲み物が提供できるようになってからだろう。
生活が豊かになってから生じる文明の末期的症状である。
ものが豊かになることと引き換えに
大切なものをそうして失っていくのである。

それに気がついている人は
喰い道楽を一笑に付すのである。
たわけ者め、といったところである。
庵主は“一升”に付してしまったからそれを知っていて苦笑するしかない。

うまい食い物、うまい酒は
それを味わうことが快感だから拒むことは至難である。
一度そのうまさに目覚めたら
やっぱり抗(あらが)えなくなるのである。

たしかに
大の男がこれがうまいだのまずいだのと
喋々喃々する図は様にならない。
男は黙ってなんとかビールじゃないがあるものを黙って口にするものなのである。

そんなことに示す興味があったら
もっと世間様の役に立つ仕事でもしろというものである。
飲み食いなんぞに興味を示す人間というのは
それ以外に才能(とりえ)がないただの人ではないのかという不安がわいてくる。

うまいとかまずいというのは自分だけで完結する世界だからである。
他人がいくらうまい酒だといっても
自分はそうは思わないとしたらその場合は自分の方が正しいのである。
他人と比較する必要がないから安心していられる平和な世界なのである。

ところが仕事はそうはいかない。
どっちが上手か下手かは比べるとすぐわかるからである。
同じ日本酒でも
うまいお酒を造る杜氏とそうでない杜氏がいる。

うまくない方のお酒を好んで呑む人は少ないだろう。
自分の才能がいっぺんにわかってしまうから
心穏やかでいることは難しい。
それに対して趣味の世界は自己完結するから心安らかに楽しんでいられるのである。

A級グルメというのは貧乏人にはできないお仕事である。
グルメといっても感想ではなく批評の次元に踏み込んだ比較の世界だからである。
実際にいい酒やいい食い物を飲み食いできない人には参加できない世界なのである。
当然いい物というのは数が少ないから恵まれていない人には出会えないのである。

たまたま呑んだ日本酒がうまかったからといって
むやみにそれを称賛したら笑われるだけである。
軽自動車に乗ってこれはこの世の中で最も快適な車だといっているようなものである。
本来の車は実は別の世界にあったということがある。

すなわち比較するものを知っていなければならないということなのである。
いいものを知っていなければならないということなのである。
その点、そこまでは評論内容の保証はできないと居直ったB級グルメは楽しい。
自分の舌のおもむくままに書きなぐればいいのだから。

庵主は日本酒に関してはどちらかというと恵まれている方である。
いいお酒もいろいろ呑ませてもらったが、
しかし、今はそんな気張って呑む酒よりも気安く呑めるうまいお酒の方が楽しい。
B級グルメの世界は自分の好みを勝手に書けるから面白いのである。
by munojiya | 2005-12-09 23:55 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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