お大事に
診察や治療を終えて帰る患者に対して美人の看護婦さんがいたわって声をかけてくれる。
「お大事に」。
急性アルコール中毒の患者には一番ぴったりの言葉である。
体が丈夫でないとお酒が呑めないから体をいたわって呑んでねという心遣いである。
その「お大事に」が出てこなかったことがある。
病気見舞いを認めていたときに、最後に締める言葉にそれを使おうと思ったのである。
ところが、それが記憶の底に沈んでいて、どうしても浮かんでこなかった。
で、手紙に書いた言葉が「ご大切に」。
あとからそれは違っていたと気がついたときは後の祭だった。
「ご大切」とは、キリスト教の「神の愛」を日本語に訳したときに使われた言葉である。
相手の宗派によっては呪いの言葉と取られかねない、ご自愛くださいでよかったのである。
病院では使えない接客用語が「どうぞまたお越しくださいませ」、特に大病をした人には。
居酒屋の中には、
暖簾をくぐると「いらっしゃいませ」ではなく、こういって迎えてくれるお店があるという。
「お帰りなさい」。