燗酒がうまい <日曜版>
寒い、いや、ざぶい。
だからうまいのである。
燗酒が、である。
燗酒がうまいのではない。
この時分に燗をつけたお酒を呑むということがうまいのである。
多くのお酒はたいしてうまいものではないように、
燗酒もそのほとんどはうまいと思えないというのが庵主の実感である。
多くのお酒は冷やで呑んだほうがうまいようである。
が、しかし、燗をつけると俄然その表情を変えるお酒があるのである。
それまで見えなかった甘さがにじみでてくるお酒である。
燗酒の甘みは、まさに甘露といっていい心をもとろけさせるうまさなのである。
冷や酒で感じる甘みが観念的な甘さだとすると、燗酒の甘みは官能的な甘さである。
官能的な方が色っぽいことはいうまでもない。
寒中の燗酒はなによりそのぬくもりがここちよいのである。
ところでこの時分に冷やで呑むお酒を寒酒と呼ぶことにしよう、それもまたうまいのである。