狼新聞
本当に狼が来たときにそれをいっても誰も信じてくれなかったという話である。
いまの新聞は狼新聞と化している。解散、解散と嘘ばかり報じ続けているからである。
その報道がことごとく嘘だったからである。その報道の真意はすでに見透かされているが。
勝った、勝った、今日も勝ったと報じていた、戦時中の新聞もそれだったのだろう。
字が読める人なら、活字が踊っているだけだということは判っているのである。
嘘と知っていても、とにかくページを埋めないことには新聞が売れないからである。
庵主のような苦労人は、新聞記者も食っていくためなのだからと同情するのである。
だから武士の情で、そこまでは口にしないのである。口を憚〈はばか〉るのである。
庵主が憚ることなく口にするのはお酒である。
お酒のうまいまずいについては、庵主には武士の情はないのである。
うまいお酒はうまいと讃え、まずい酒なら呑むまでもないと斬って捨てるのである。
庵主は新聞ではないから、嘘を書く必要がないからである。
気ままに生きている“苦労人”だから、柵〈しがらみ〉がないからである。
自分で酒を造る自由も与えられていないので、語りっぱなしですむからでもある。
そしてなにより、うまいお酒しか呑めない体質なので、それしか語れないからなのである。