小名木善行
〈おなぎ・ぜんこう〉さんという人がいる。
この人の頭の中はどうなっているのだろうかと思うのである。
この人に何が起こっているのかと思うのである。
その発想が面白いからである。
どこから、そういう紐(発想)を引っ張ってくるものか。
天恵か。それとも本当に賢いからなのか。
庵主は、お酒はどんな造りをしようが、呑んだ時にうまければそれでいいのである。
純米酒に拘らない、アル添酒を忌避しない、変な造りも馬鹿にしないのである。
まずは、呑んでみてからである。
で、大抵は、真っ当な造りをしたお酒がうまいということなのである。
どこからそういう発想が生まれようが、その内容が面白ければそれでいいのである。
話は面白い方を選ぶのである。好むのである。そう信じるのである。
歴史というのは、その民族なり、集団が一番心地よいストーリーの事だと思っている。
嘘でもいいのである。心がワクワクするものだったら、それが一番楽しいからである。
こういう話を聞くと、庵主はワクワクするのである。「面白
〈うま〉い」と思うのである。
面白いのお裾分けである。いいものを渡す時にはお福分けというのだと聞いたことがある。
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庵主が呑めるのはうまいお酒だけである。
うまいお酒とはその味わいの中に「うまい」があるものである。
まぎわらいしいが、後者の「うまい」は形容詞ではなく、名詞である。
たとえば夢偽称中、おっとっと誤変換、正しくは「麦焼酎」である、その「いいちこ」。
「いいちこ」の安いものはまずくはないが、庵主にはうまいといも思えないのである。
庵主には呑めないといっていい部類の酒である。
しかし、フラスコ瓶(四合瓶で2800円)からは俄然うまくなるのである。
これなら呑めると体が納得するのである。そのランクから「うまい」を感じるのである。
人の心をワクワクさせるものが「うまい」である。
うまいと書くと味覚の世界だけのように感じるが、この「うまい」は一般名詞なのだ。
「面白い」とか、「心にかなう」とか、「心地よい」と言い換えてもいいのである。
だから、「うまい本」とか「うまい映画」といっても全然差し支えないのである。
小名木さんの話は「うまい」話なのである。
「ワクワクさせる=うまい」だから、「うまい」を「ワクワクする」といっても同じだ。
「真実」に触れているときの感動のことである。「真実」とは、生まれて来てよかった思う
物の見方や考え方のことである。呑んだ時にそう思うお酒もまた真実なのである。