2011-02-01 二月に呑むお酒
中小の蔵では、年が改まるのを待って格式の高いお酒の仕込みをはじめる蔵が多いから、
早いところではその吟醸、大吟醸クラスの初搾りがそろそろ出回る時分である。
といっても、お酒は新しいからうまいとは限らないのだが、いわば初鰹である。
それは季節の味わいである。今年もまだ生きているという喜びなのである。実感なのである。
口にしたくなるのである。確かめたくなるのである。それを幸福に掛けて口福と呼んでいる。
この時分の新酒は、栓を開けたときに立ち込める香りが蔵の香りそのものなのである。
造り手のお酒に対するいとおしさが詰まっているからである。ただし、いいお酒は、である。
工場で安定的に造られたお酒ではその香りが味わえないからつまらないのである。
酒瓶の口からアラジンのランプように立ち込める、その蔵の香りがうまいのである。
蔵元に行ったときにただよっている酒粕のようなにおいである。
そのにおいが好きな人はそれを香りと呼ぶのである。
お酒の業界用語では好ましくないにおいをニオイといい、好もしいものはカオリと呼ぶ。
パン工場のパンを焼くバターのにおいも時々ならおいしそうないい香りであるが、
日々それが漂っている近隣住民には悪臭〈ニオイ〉でしかないという。有難みがないという。
新酒のにおいはそれの逆である。この時分だけに味わえるその香りは酒呑みの至福である。