2011-11-29 番外篇 酔いが醒める誤植
琵琶法師の芳一が語る平家物語を聞いてその眷属〈ちすじ〉が涙するように、
その人が語る話を読んで読者は、すなわち日本人の読者〈ちすじ〉なら思わず涙するのである。
その涙は日本人の清気を取り戻してくれる涙である。“鬱陶”している心が瞬時に晴れる。
語り芸の極致を味わえる。日本人に生まれてきて良かった、と。真実の味わいのうまさである。
『一方、すぐ対岸にある「金門島」は厦門湾の外にあります。
海峡は流れが速く、これを乗り越えるためには、速度の速い船を使ってもスピードが出せませ
ん。
島の人口はわずか4万。
漁業やさつまいもの栽培で生計を立てており、食料時給ができる島です。
つまり、大陸との通行を遮断されたとしても、金門島を拠点にすれば長期間戦い抜けます。』
(同上)。今の日本人が知らなかったことを教えてくれるからである。根本博の名を知るのだ。
だがしかし、その至芸も一本の誤植が興ざめにしてしまうのである。
「食糧時給」は「自給」の誤変換である。折角気持ちよくその語りに酔っているときに、その
誤植で醒めてしまうのである。いい事を語る人の口許についた米粒が気になるようなものだ。
不味いお酒が良くないのも、不味いという一点で折角の酔いが醒めてしまうからなのである。
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『10月半ばになると、金門島の対岸にある港で、共産党軍によるジャンク戦の徴発が始まり
ました。
有無を言わさぬ強制徴用です。』(同上)。
「ジャンク戦」は「ジャンク船」だろう。
話は突然変わって、「徴発」が「挑発」と誤変換されていないのは幸いである。
その「徴発」の「発」はどういう意味なのかと、ふと疑問が生じたのである。
「発」に「物資」という意味でもあるのだろうか。
「説謬辞典」を引いてみる。
「発」という字の意味に九義〈きゅうぎ〉あるのである。←そんなにあるのか、のあるある。
①矢を放つ。たまをうつ。「発射」 ②初めて世に現れる。出す。起こる「発火」
③明らかになる。外にでる。明るみに出す。あばく。ひらく。「発見」
④盛んになる。「発育」 ⑤はじめる。はじめて好評する。「発行」
⑥おこす。「発憤」 ⑦出かける。いでたつ。送り出す。「発着」
⑧撥のかわりに用いる。はねかえす。「反発」 ⑨うつ弾丸、たまなどを数える語。「一発」
九つの意味を、庵主はそんなにあるとは知らずに使い分けていたのである。実は利発なのだ。
で、「徴発」の「発」はどの意味なのか。③かな。庵主には判らない。やっばり馬鹿だった。
