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芋焼酎を呑む夜

 花粉症の季節である。庵主もベテランの花粉症患者である。薬をのむ趣味がないのと、どうせ5月の連休が明けるころには症状が治まるのが分かっているから、たいして花粉症対策というのをしていない。安いテッシュペーパーを多めに買いこんでくることだけである。

 この時分は庵主にとっては日本酒が呑めない時期である。鼻が詰まっているときはにおいが嗅げないから酒の味がわからない。鼻が通っている時間も喉が痛んでいるから、せっかくのお酒のうまさが喉で味わえない。喉がおさまっているときでも目が痒いからおちおちお酒を呑んでいられないのである。

 健康なときはしっかり味わえるお酒の味がこの季節には中途半端にしか楽しめないから呑んでもおもしろくないのである。だから、進んでお酒を呑むことはない。
 そういうわけで、いまは日本酒を呑んでもおもしろくないから、焼酎を呑んでみることにした。

 庵主は焼酎を呑んでもうまいと思うことがほとんどない。いい酒だなと感じる場合もあるを呑んでもうまいという感興がわいてこないのである。日本酒の滲み出てくるうまさに比べたら、焼酎はただアルコール度数のはったりがきいている酒とか思えないのである。
 日本酒のうまさが繊細だとすると、焼酎のうまさは豪快といったところだろう。

 神泉(しんせん)に落ち着ける焼酎バーがあるという。神泉は渋谷から井の頭線で一つ目の駅である。
 雰囲気がいいお店だということなので出かけてみた。
 雨が降っている。雨の日は花粉が穏やかだということで庵主の外出日なのである。

 庵主には不案内の駅である。駅に降りたが道が入り組んでいる。頭の中にたたきこんだ地図と実際に現地に立ったときの感覚が一致しないのである。
 道を間違えてぜんせん違う通りにでてしまった。いったん駅に戻って最初から出直してやっとそのお店にたどりつくことができた。

 評判どおり静かないいお店だった。
 酒祭り(「むの字屋」用語で酒のメニューのこと)を見ると、呑み手の期待を裏切らない銘柄が並んでいる。これが呑みたかったという銘柄もある。
 じっくり酒祭りを楽しんだ。選ばれた一つひとつの銘柄が想像を高めてくれる。しばし酒祭りの中に遊んでしまった。見応えのある酒祭りなのである。

 庵主が選んだのは芋焼酎の「六代目百合」である。35度と25度が出ていたが、35度を頼んだら今は入荷待ちということで25度を呑むことにした。
 マスターが「百合」のパンフレットがあるといって見せてくれた。六代目塩田将史がおばあちゃんの造った麹を使って常圧で蒸留した芋焼酎とある。

 焼酎は家業でやっている小規模の蔵元が多い。生産量が少ないからそれがうまいという評判が立つと奪い合いになるのである。
 量が少ないのなら、地元ではけるのだから放っておけばいいものを、酒販店なり雑誌の特集なりで世に知られていない銘柄を知っているのが商売とばかりにこれはうまい焼酎だと紹介するものだから庵主などはほんとにうまいのかなとつい気になるのである。

 庵主は酒を直接蔵元に注文するとか、ネットオークションで買うということはしない。そこまでして酒を呑むことはないと思っているからである。また酒販店や居酒屋に行けばすぐ買えるのに手間暇をかけて求めるというのが面倒くさいからである。手に入らない酒を追いかけるほど執念がないのである。
 そして、不思議なことに、呑みたいと思っているとそのお酒がなぜか向こうの方からやってくるようになったからである。

 今夜の「六代目百合」もそうだった。ここで呑めるとは思わなかったのにちゃんと酒祭りに載っているのである。呑む酒はためらわずそれである。
 ストレートで呑む。水をたっぷりもらう。グラスの量は110ミリリットルである。25度の酒だからアルコール量は27.5ミリリットルである。日本酒換算(17度として)で160ミリリットルである。それ一杯で庵主の限界に近い。

 [百合」は芋焼酎である。ていねいに造られている酒であることはわかる。しかしそれのどこがうまいのかやっぱり庵主にはわからない。
 香りを味わってみる。器用な人は、その香りの中に洋梨とかなんとかベリーやナッツの香りとかを感じるのだろうが、庵主にそんな趣味はない。全体の味がうまいかどうかである。味の中にほんのり塩みを感じた。
 要するに庵主の味覚には焼酎の基準となる味がないということなのである。
 とりあえず、「六代目百合」は呑んだという足跡だけを残してきたのである。

 「万暦」(ばんれき)があった。44度である。
 25度の焼酎は、日本酒に比べると相当アルコール度数が高いが、庵主にはなんとなく水っぽく感じる。ちょうど15度前後の日本酒を呑んだときに水っぽく感じるのと同じである。やはり日本酒なら17~18度ぐらい、焼酎なら45度ぐらいの度数がうまいと感じるのである。いずれもそのまま呑んだのでは体にはよくない度数ではあるが。
 「万暦」で締めることにした。

 「万暦」は冷凍庫にはいっていた。しかし凍ってはいない。ショットグラスに注がれる「万暦」はとろーりといった感じをたたえている。40ミリリットルのショットグラスがすぐ曇る。
 焼酎もこれはすごいと感じる。うまいとは思わないが、呑んだときの第一印象がすごいの一言である。ただし、いまは花粉症で少々舌が荒れているせいか、度数が高いせいもあるが刺激がかなり強い。一口を含んで香りを楽しみ舌にのせたときの感触をたしかめて呑み込んだらすかさず水をたっぷり飲み込んだ。

 十分な焼酎だった。 
by munojiya | 2005-03-23 23:48 | 能書きが必要な酒 | Trackback | Comments(0)

うまいお酒があります その楽しみを語ります


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